商標登録とは何か~弁理士による徹底解説

what-is-reg日本人なら「商標登録」のことを知らないという人はいません。他社に勝手に使われないように自社のネーミングを登録しておくことという程度は誰でも知っているはずです。

しかし、なぜ登録するだけで、その商標を独占することができるのか。登録された商標は他人が一切使ってはいけないのか。誰でも登録することができるのか。そういう基本的なことさえ良くわからないのではないでしょうか。

いまさら人に聞けないと貴方は思っているかもしれません。でも、安心して下さい。商標登録について多くの方から相談を受けて感じることは、専門家を除き、冒頭に書いた以上のことを知っている人はほとんどいないということです。皆、知っているふりをしているのか、あるいは、知っているように見えるだけなのです。

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目次

1.商標登録とは商標を登録すること

  • どうやって登録するのか
  • どこで登録するのか
  • 誰でも登録できるのか

2.商標とは何か

  • 識別力(識別性)
  • 商標的使用態様
  • 商標の機能
  • 登録の対象となる商標

3.商標の登録要件

  • 商標が識別力を有すること
  • 他人の先登録商標と類似しないこと

4.商標権とは何か

  • 独占できる地域
  • 独占できる使用の範囲
  • 侵害したらどうなる

1.商標登録とは商標を登録すること

文字通りの意味であり、皆さんもご承知の通りです。商標権は、商標原簿に商標の権利関係が記入されることによって発生します。この手続は、商標権を発生させる手続という意味で、商標権の「設定登録」と呼ばれています。この設定登録によって商標が登録され、登録された商標は「登録商標」になります。

商標原簿は、商標権の登記簿のようなものであり、特許庁に備え付けられています。昔の商標原簿は、紙の台帳でしたが、今では、電子データの記憶媒体が用いられています。

どうやって登録するのか

JQ114_72Aまず、特許庁長官に対して商標登録出願を行って、特許庁の審査官による審査を受ける必要があります。

審査の結果、全ての登録要件を満たしていると判断されると、出願人に登録査定が送付されます。登録査定を受領した場合には、登録料を支払うだけで、商標登録を受けることができます。

一方、いずれかの登録要件を満たしていないと審査官が判断すれば、出願人に拒絶理由通知が送付されます。この場合、適切な反論を行うことができなければ、その後に拒絶査定が送付されます。

拒絶査定に不服がある場合には、拒絶査定不服審判を請求することができます。この場合、あらためて3名の審判官の合議体による審理が行われます。その結果、全ての登録要件を満たしていると判断されれば、商標登録を受けることができます。

実際の審査期間

1件の商標登録出願の審査自体は1日もかからない作業です。しかしながら、日本では年間約10万件の商標登録出願が行われており、最初の審査結果(ファーストアクション)が得られるまでに4~5ヶ月程度の審査待ちの期間があります。このため、早くても登録までに6ヶ月程度の時間がかかります。

ただし、一定の条件を満たしていれば、早期審査の申請を行うことによって、優先的に審査を受けることができます。この場合、ファーストアクションまでの待ち時間が2ヶ月程度に短縮されます。

拒絶理由通知を受けた場合には、余分に時間がかかります。拒絶不服審判を請求した場合は、さらに時間がかかります。かなりばらつきがありますが、拒絶理由通知を受けた場合で3~6ヶ月程度の時間が余分にかかります。また、拒絶査定不服審判を請求した場合には、さらに6ヶ月~1年程度の時間がかかります。

どこで登録するのか

lJPO-sign出願から登録まで商標登録に必要な全ての手続は特許庁で行われます。特許庁は、東京都千代田区霞が関にあります。日本の特許庁はここだけしかなく、商標登録出願を行うことができる窓口は一カ所だけですが、郵送やインターネット経由でも出願することができます。

オンライン手続

日本の特許庁は、1990年に世界に先駆けてオンライン手続を導入した官庁として有名です。インターネットが普及する10年も前のことであり、ISDN回線にモデム及び専用端末を繋いで利用するものでした。当時は、ペーパーレス出願と呼んでいましたが、その後、専用端末が不要のパソコン出願を経て、現在は、インターネット出願に移行しています。なお、インターネット出願といっても、事前の準備手続がかなり煩雑であるため、一般人向けではなく、繰り返し手続を行う弁理士や大企業向けと考えた方が良いでしょう。

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誰でも登録できるか

誰でも出願して商標登録を受けることができます。出願人になることができるのは、自然人又は法人であり、個人名、会社名のいずれでも商標登録出願をすることができます。ただし、権利能力のない団体名(例えば、町内会や同好会)での出願は認められません。また、本名以外の屋号や略称での出願も認められません。

外国人の場合

外国人の場合であっても、問題なく出願することができます。ただし、日本国内に住所を有しない外国人は、弁理士を代理人として手続を行う必要があります。

複数人の場合

複数人が共同して1つの商標登録出願をすることもできます。共同出願の各人の持ち分を予め定めている場合には、願書に記載して届け出ることができます。持ち分を定めていなかった場合には、民法の規定により持ち分が等しいものと推定されます。なお、商標権を共有している場合、たとえ自分の持ち分であっても、他の共有者の同意を得なければライセンスしたり、譲渡したりすることができないため、注意が必要です。

2.商標とは何か

「商標」とは、自他商品(自他役務)の識別標識のことです。
つまり、需要者が自社の商品(サービス)を他社の商品(サービス)と見分けるための目印となるものが「商標」です。

商品に付されている文字だからといって商標であるとは限りません。例えば、その文字が目立たないように表示されていれば、自他商品の識別標識として機能しておらず、商標であるとはいえません。逆に、商品自体には表示されていなくても、その商品の広告媒体や陳列棚に表示されていれば、その商品の商標といえます。このことは、サービス自体には商標を付することができないにもかかわらず、サービスの商標が存在していることからもおわかり頂けると思います。

商標が自他商品識別標識であることを理解することは、商標登録の本質を理解する上で極めて重要です。これを理解していないと商標登録制度について十分に理解することはできないでしょう。逆に、商標が自他商品の識別標識であるということがわかれば、もう商標登録のことが半分はわかったようなものです。

識別力(識別性)

medium_2070024645商標の中には、本来的に自他商品の識別標識として機能し得ないもの、つまり、商品選択の目印とはなり得ないものがあります。例えば、デザイン化されていないアルファベット1文字や数字1文字は、どう考えても識別標識にはなり得ません。また、商品(サービス)との関係において、識別標識になり得ないものもあります。

例えば、商品コンピュータに「apple」や「sweet」は識別標識になり得ますが、商品リンゴに「apple」や「sweet」は、商品の普通名称や品質を示しているだけであり、自他商品の識別標識として理解されることはないはずです。

自他商品の識別標識として機能し得るという商標の性質を識別力(識別性)と呼んでいます。つまり、識別標識として機能し得るなら、識別力を有する商標であり、機能し得ないなら、識別力を有しない商標ということになります。

当然のことながら、識別力を有しない商標を登録することはできません。

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商標的使用態様

全く同じネーミングを表示した場合であっても、表示する場所や大きさによって、商標として機能したり、商標として機能しなかったりします。商標は自他商品の識別標識(商品選択の目印)ですから、このような識別標識(目印)として機能するように表示されていなければ、もはや商標であるとはいえません。そこで、自他商品の識別標識として機能するような商標の使用状態のことを「商的使用態様」と呼んでいます。

一般的には、商品の前面に大きく表示されていれば、商標的使用態様であり、商品の背面に小さく表示されていれば、商標的使用態様ではないといえます。ただし、商品ごとに事情は異なります。例えば、洋服であれば、前面に大きく表示されているものはデザインであり、通常は商標的使用態様に当たりません。逆に、小さなタグに表示されているものが商標的使用態様に当たります。需要者はそこに商標が表示されていると知っており、それを見て商品の提供者を判別しているからです。

他人の商標使用に商標権の効力が及ぶか否かという判断の場面では、商標の使用態様が問題になります。つまり、他人が登録商標を使えば、直ちに商標権侵害になるのかといえばそうではなく、商標的使用態様で使用していた場合に商標権侵害になります。

商標の機能

商標は、出所表示機能・品質保証機能・宣伝広告機能を有するといわれています。このうち、重要なのは出所表示機能です。残りの2つは、出所表示機能を前提として生じる派生的な機能であり、講学上はともかく、実務上は重要ではありません。

出所表示機能

商標が自他商品(自他役務)の識別標識であるなら、商標は、その商品(サービス)を誰が提供しているのかという「出所」を表示する機能を発揮しているはずです。出所が表示されているからこそ、自他商品を識別できるという関係です。ここでいう出所は、どこの誰とまで特定できるものでなくても構いません。以前に購入した商品や利用したサービスと同じ業者が提供していると認識できれば十分です。

例えば、トラックにクロネコのマークが表示されていれば、あの運送サービスだなと認識できるはずです。このとき、どこに本社がある何という名前の会社であるのかは問題ではなく、そんなことはわからなくても、クロネコのマークは、運送サービスの出所表示として十分に機能しているといえます。

品質保証機能

商標の出所表示機能が十分に発揮されていれば、需要者は、その商標が付された商品に一定の品質(従前と同様の品質)を期待するようになり、その期待に応えようとする業者は、品質を維持するように努力します。その結果、商標が品質保証機能も発揮するようになると言われています。

宣伝広告機能

商標の出所表示機能が十分に発揮されるなら、需要者に商標を認知させ、あるいは、商標に良い印象を与える宣伝広告を行うことが可能になります。つまり、商標を介在させて宣伝広告を行うことができるようになります。

登録の対象となる商標

何度も繰り返すようですが、商標は自他商品の識別標識です。このような識別標識になり得るものとしては、文字や図形のほかに、立体的形状、音、香り、色、肌触りなども考えられます。このようなものの全てを商標登録の対象としている国もあります。

日本の場合、2015年1月の時点では、文字、図形、立体的形状の商標以外は登録の対象として認められていません。ただし、2014年の商標法改正により、2015年4月からは、音、ホログラム、動画、輪郭のない色の商標などが新たに登録の対象に加えられることになっています。

3.主な登録要件

どんな商標でも出願すれば登録できるというわけではありません。商標法は、多くの登録要件を規定しており、これらの登録要件の全てを満たしていなければ、商標登録を受けることができません。ここでは、実務上、特に重要な2つの登録要件についてのみご説明します。

商標が識別力を有すること

識別力を有しない商標は登録を受けることができません。

識別力がないということは、自他商品の識別標識として、出所表示機能を発揮することがあり得ないという意味です。そうすると、客観的には商標と呼ぶべきものではないということであり、登録して保護する価値はないからです。

実務上は、商品の品質など(産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格…)を普通に用いられる方法で表示しただけの商標と認定され、識別力が否定されるケースが少なくありません。例えば、商品りんごについて商標「osaka」、「sweet」、「red」はいずれも識別力がなく、登録を受けることはできません。

主観的な判断

識別性の判断は、主観的にならざるを得ない面があり、審査官によって審査結果が大きくばらつく場合があります。誰が見ても、識別性が認められるケースや、識別性が否定されるケースもありますが、微妙なグレーゾーンといえるケースが少なくありません。

この様な場合に過去の登録例を調べて識別性が認められると判断して出願しても、「私は認めない」と主張する審査官に当たれば、拒絶されてしまいます。こういう場合、拒絶査定不服審判を請求すれば、登録を認められる可能性がかなり高いのですが、追加的な時間と費用がかかるため、クライアントが諦めてしまうケースが少なくありません。

他人の先登録商標と類似しないこと

類似関係にある2つの商標のどちらを登録するのかは、先願主義で決まります。

商標権の排他的効力は、類似範囲にまで及びます。従って、類似関係にある2つの商標をともに登録することはできません。そこで、日本の商標法は、先に出願した者のみが商標登録を受けることができる「先願主義」を採用しています。つまり、先に出願した他人の商標が登録されている場合、その商標と類似する商標は、もはや登録することはできません。

ここで留意すべきは、たとえ商標の使用開始が他人よりも先であったとしても、出願したのが他人よりも後であれば、商標登録を受けることができないということです。自社が先に商標の使用を開始し、他社が後から同じ商標を採用したような場合に、他社が法的に保護され、自社が訴追されるはずがないと思っていると大きな過ちを犯すことになります。

出願前の商標調査

他人の登録商標が存在するか否かは、商標調査を行って調べることができます。出願前に商標調査を行っておくことにより、この要件を満たしているのか否かを出願前に把握することができます。従って、無駄な費用と時間の浪費を防止するために、出願前に商標調査を行うことが重要です。

コンセント制度

他人の先登録商標と類似していたとしても、その他人の同意(consent)が得られれば、商標登録を認めるという商標法上の制度をコンセント制度と呼んでいます。諸外国では、コンセント制度を採用している国が多いのですが、日本では採用していません。このため、たとえ他人の同意を得たとしても、登録を受けることはできません。

アサインバック

日本の商標法にはコンセント制度がないため、他人の先登録商標に類似している商標を登録しようとした場合、アサインバック(assign back)という手法を用いる必要があります。アサインバックとは、審査を受けるときだけ、出願の名義を他人に書き換え、登録査定を得た後に再び名義を元の出願人に戻すという方法です。もちろん、コンセント制度と同様、他人の協力が得られることが前提です。

 4.商標権とは何か

商標権とは、商標を独占的に使用し、他人の使用を排除することができる権利であり、商標登録を受けることによって取得することができます。つまり、商標登録出願の出願人が、商標権者になります。

独占できる地域

商標権の効力は、日本全国に及びますが、日本国外には及びません。商標権は、我が国の商標法によって付与される権利だからです。外国でも保護を受けたい場合には、その国で商標登録を行う必要があります。

独占できる使用の範囲

商標権は、同一範囲に関する専用権と、類似範囲に関する禁止権に分けることができます。

専用権

商標権者は、指定商品について登録商標を独占的に使用することができます。この権利は専用権と呼ばれています。専用権は、同一範囲に関する権利です。つまり、指定商品(指定役務)と同一の商品(役務)について、登録商標と同一の商標を使用することに関する権利です。このような同一範囲において、商標権者は、商標を使用することができ、かつ、他人の使用を排除することができます。

禁止権

商標権者は、類似範囲における他人の使用を排除することができます。この権利は、禁止権と呼ばれています。禁止権は、類似範囲に関する権利です。つまり、指定商品(指定役務)と同一又は類似の商品(役務)について、登録商標と同一又は類似の商標を使用することに関する権利です(同一範囲は除きます)。このような類似範囲において、商標権者は、他人の使用を排除することができます。

なぜ専用権と禁止権なのか

専用権(同一範囲)では、権利者の使用が認められているのに対し、禁止権(類似範囲)では、権利者の使用が積極的には認められていません。その理由は、同一範囲とは異なり、類似範囲での使用は、実際にどうのような使用になるのか予測できず、そのような使用についてまで法律が積極的に認めるわけにはいかないというだけです。従って、類似範囲においても、事実上、商標権者は商標を使用することができます。

要するに、商標権者は、同一範囲、類似範囲のいずれにおいても、商標を使用することができ、かつ、他人の使用を排除することができます。

 侵害したらどうなる

他人による無断使用は、商標権の侵害行為に当たります。商標権を侵害された場合、商標権者は、損害賠償請求権と差止請求権を行使することができます。

いきなり訴訟というケースもあるかもしれませんが、ほとんどの場合、まず、商標権者から侵害者へ警告書が送られ、当事者間で話し合いが行われます。この話し合いで決着しない場合に侵害訴訟を提起することになります。多くの場合、裁判所は和解を勧めますが、和解が成立しない場合には判決が出されます。

損害賠償請求権

損害賠償請求権は、他人の侵害行為によって受けた損害の賠償を請求することができる権利です。つまり、商標権者は、過去の侵害行為について金銭的賠償を求めることができます。例えば、ライセンス料相当額の支払いを求めることができます。

日本の損害賠償訴訟では、自らの被った損害額を立証することが難しいことから、請求できる賠償額が少なくなる傾向にあります。ただし、商標権侵害には、相手方の得た利益額に基づいて自らの損害額を推定できるという権利者保護の規定の適用があります。

差止請求権

差止請求権は、他人が商標権を侵害するおそれがある場合に、その侵害行為をやめさせることを請求できるという権利です。つまり、将来の侵害行為の差し止めを求めることができます。裁判所による差止命令の実効性を担保するために必要であれば、侵害行為に関わる物の廃棄や設備の除去を命じることもできます。