商標登録の基礎知識
海外商標の冒認対策(1)
1. 日本企業のブランドが狙われた事例
良品計画社は、中国進出に併せて商標「無印良品」の中国への商標出願を行いました。
しかしながら、タオルを含む一部の分野(24類)での権利化が漏れており、中国企業に商標権を先取りされてしまいました。
中国企業が良品計画社に対して商標権侵害の訴えを起こしたところ、裁判所は中国企業の主張を認め、良品計画社は敗訴し損害賠償の支払いを命じられました。
このように、海外において正当な権利を有しないものによって商標出願されたものを、「冒認商標」といいます。「冒認商標」によって他者に抜け駆けされ権利を取られてしまうと、真の権利者であっても、後から無効審判などで争って無効化することは大変に困難です。
この事例から得られる教訓として、早期に海外出願を行い、漏れのない内容で商標権を取得する「ブランド管理」が重要であると分かります。
2. 海外展開に潜むリスク
事前のブランド管理を行わずに自社製品を海外のECサイトにて販売した場合、警告書が送付されたり、出品停止の要請を受けたり、最悪の場合、上記の事例のように損害賠償金が請求されるような事態に巻き込まれる可能性があります。
(1) 日本で商標登録を行っているだけでは安心できません
日本における登録商標は、日本国内でのみ効力を有します。このため、海外にブランド展開を行う場合、各国ごとに商標権を取得する必要があります。
日本製品は、安全性や品質面で海外市場でも人気があります。感染症を契機として、訪日せず日本製品を入手できることから、例えば中国の「Taobao」や「Tmall」などの海外ECサイトでの日本製品の需要は今後も増加していくと思われます。
現時点では自社製品を海外市場で販売していなくても、将来的に参入しようとした段階で、他社によって「冒認商標」が出願され権利を先取されてしまっていた場合、自社製品を海外で販売する行為は他社の商標権の侵害となるおそれがあります。
また、各国で商標権を取得していない場合、自社製品の模倣品が出てきた場合にそれを排除することができません。
(2)まだ有名ではないから「狙われない」とは言えません
現時点では知名度がないブランド・商品や中小企業であっても、冒認出願のターゲットになります。
大手企業は「冒認商標」の対策として、既に海外の商標権を網羅的に取得している場合が多くあります。また、日本において商標が有名となり、海外でも日本企業を表す商標としてよく知られているような場合は、権利の無効理由に該当することから冒認商標の権利化にハードルがあります。
そこで、海外の商標ブローカーは、例えば、新聞や雑誌に数回掲載された程度の露出のブランドに目を付けて、有名になる一歩手前のブランドの冒認出願を行っているとの情報もあります。
3. 今すぐに行うべき対策
商標登録の制度として、先に特許庁に商標出願の手続きを行ったものが優先的に保護される先願主義が採用されています。日本以外に中国、韓国、台湾、欧州など、多くの国で採用されている制度であり、商標の使用実績が登録の条件とはなっていません。このような国に海外進出の予定がある場合は、早めに商標出願を検討すべきです。
具体的な対策として、まず自社製品を海外で販売する前に、自社ブランドに類似する海外商標の登録がないか、先行商標の調査を行います。
先行商標調査にて自社ブランドに類似する先行商標がない場合は、先願権を確保するために早急に商標出願を行うことが重要です。
一方で、自社に関連する「冒認商標」がみつかった場合は、対策を模索する必要があります。「冒認商標」が出願中であれば権利化を阻止するための情報提供を検討したり、商標権が成立している場合には無効理由の有無を検討したりすることが考えられます。ただし、一旦権利化されてしまえば、自社が真の権利者であったとしても「冒認商標」を無効化することは困難であり、コストも発生します。
したがって、商標ブローカーに狙われて「冒認商標」が出願される前に、自社が商標出願を行うことが肝要です。
外国への商標出願の概要については、− 商標登録の基礎知識 −