商標登録の基礎知識
地域団体商標とは
地域団体商標とは、地域産業の活性化及び地域ブランドを適切に保護するために、地域の特産品等に使用される地域ブランドを保護するための制度です。
例えば、以下の商標が地域団体商標として商標登録されています。
例)有田みかん、長崎カステラ、沖縄そば、今治タオル、有馬温泉、博多織、瀬戸焼、九谷焼、本場結城紬、本場奄美大島紬
普通の文字で表記した上記のような商標を通常の手続きで出願すると、識別性がないとして登録が認められません。しかしながら、地域ブランドを適切に保護するためには、上記のような商標の登録を認めるべきであり、一定の要件を満たした場合には地域団体商標として商標登録することができます。
地域団体商標の要件
1.出願人の要件
地域団体商標は誰でも出願できるということではありません。出願人になることができるのは、以下のいずれかの法人に限定され、株式会社や個人は出願人になることができません。また、出願人の要件を満たしていることを証明するため、登記簿謄本等を提出する必要があります。
- 事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合(法人格を有し、設立根拠法において構成員資格者の加入の自由が保障されていること)
- 商工会、商工会議所
- 特定非営利活動法人
- (1)~(3)に相当する外国の法人
なお、複数の者が共同して出願をする場合、出願人全員が上記の要件を満たしている必要があります。
2.商標の要件
地域団体商標として登録するためには、以下の要件(1)~(3)の全てを満たしている必要があります。
(1) 地域の名称と商品の一般名称を文字のみで普通に表示する商標であること
商標法において、以下に該当する商標が地域団体商標として登録できる旨が規定されています。以下①から③に該当し、普通の文字で表記されている場合、地域団体商標として登録できる可能性があります。文字を装飾化したロゴやマークを地域団体商標として登録することはできません。
①地域の名称及び自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標
例)有田みかん、長崎カステラ、沖縄そば、今治タオル
②地域の名称及び自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標
例)博多織、瀬戸焼、九谷焼、有馬温泉
③地域の名称及び自己若しくはその構成員の業務に係る商品若しくは役務の普通名称又はこれらを表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字並びに商品の産地又は役務の提供の場所を表示する際に付される文字として慣用されている文字であって、普通に用いられる方法で表示するもののみからなる商標
例)本場結城紬、本場奄美大島紬
(2) 地域の名称が商品の産地等のように密接な関連性があること
一般的に、商品・役務と「地域の名称」との密接な関連性については、商品の産地・製造地・製法の由来地、役務の提供地である場合等に認められます。
(3) 出願商標と同一の商標が出願人又はその構成員の商標として周知であること
少なくとも商品を生産・販売する地域や役務を提供している地域が属する都道府県内で広く知られていることが必要で、それを超える範囲にまで知られていることが立証できれば、登録できる可能性が上がると考えられます。
出願に際して必要な書類等
地域団体商標を出願するためには、地域団体商標登録願及び上述した要件を満たしていることを証明するための書類を提出する必要があります。
地域団体商標登録願の他に提出する必要がある書類は以下の通りです。
- 組合等であることを証明する書面
- 地域の名称を含むものであることを証明する書類
- 需要者の間に広く認識されていることを証明する書類
弊所にご依頼いただいた場合、書類は全て弊所にて作成致しますが、上記(1)~(3)に添付する資料は出願人が用意していただく必要があります。
(1)については、登記簿謄本等を用意する必要があります。
(2)については、該当する地域において商品が製造・販売等されていることが客観的に分かる資料を用意する必要があります。例えば、雑誌・新聞等の記事やパンフレット・カタログを用いることができます。
(3)については、出願商標が需要者の間に広く認識されていることが客観的に分かる資料を用意する必要があります。商品の販売数量・シェア・販売先等、広告宣伝の規模や期間、商標を使用している期間等を証明するための資料が効果的です。商標を使用している期間が長い方が周知であると認められやすいと考えられます。例えば、雑誌・新聞等の記事やパンフレット・カタログ、公的機関等の証明書を用いることができます。
地域団体商標として登録するためのポイント
過去に特許庁が公表した「地域団体商標に係る出願戦略等状況調査」を参照すると、出願された商標のうち、約半数について「周知性」の要件を満たさないとした拒絶理由が通知されています。
なお、登録状況について、特許行政年次報告書2016年版(特許庁発行)を参照すると、制度が開始されてから2016年3月末までの出願件数は1130件、登録件数は592件で、約半数の出願の登録が認められていません。
周知性の要件を満たすためのポイントは、以下の要件(1)~(3)を満たしていることが客観的に分かるような資料を提出できるかであると考えられます。
(1) 出願商標が出願人又はその構成員の商標として周知である
実際に商品を製造販売等している者が、出願人又は構成員であることが客観的に分かる資料を提出する必要があります。
具体的には、商品パッケージやホームページ等に製造者・販売者等として出願人又は構成員の名称(氏名)及び住所が記載されていることや、出願人又は構成員の商標として、新聞や雑誌に紹介された記事等が効果的です。
(2) 出願商標と同一の商標が周知である
出願した商標と使用している商標の同一性は厳しく判断される傾向があります。このため、商標が周知だとしても使用している商標がロゴ化されていて出願商標との同一性を欠く場合、出願商標が周知であるとは認められません。出願商標と使用商標の平仮名・片仮名・ローマ字の相違も出願商標と使用商標の同一性が認められませんので注意が必要です。
例えば、次のようなケースでは、出願商標と使用商標の同一性が認められません。
出願商標「今治タオル」
使用商標「今治たおる」「今治towel」「Imabari Towel」
(3) 指定商品との関係で周知である
指定商品全てについて周知であることを証明するための客観的な資料を提出する必要があります。
例えば、出願商標「有田みかん」指定商品「みかん,みかんジュース」である場合、「みかん」及び「みかんジュース」について周知であることを証明する必要があります。
作成2017.01.17(FK)